僕の失恋1 短編

「正人、大阪に引っ越しても時々近況報告とかメール交換しようね。大阪って都会だよね、都会の大学にはキレイな女性もいっぱいで、正人は面食いだから気が散ってしょうがないんじゃない?私を忘れたらダメだよ!」

  僕の名前は、山口正人。岡崎美子は、僕の幼馴染。

 「美子だって東京の大学へ行くんだろう!そっちも同じだろう。大阪より東京の方がもっと都会じゃないか!ちゃんと勉強しろよ。東京のレディースマンションって防犯が充実しているらしいけど安心するなよ。」

 美子は、春から東京の大学へ通い一人暮らしをすると言う。いずれは、旅館の後を継ぐ一人娘なのだ、大学を卒業したら和歌山に戻って後を継ぐと父親と約束をしてわがままを聞いてもらい東京へ行く事になったのだ。

 美子の父親が経営する和歌山の旅館で、母は友達だった社長の誘いで住み込みで働いていた。僕が生まれる前から母は、旅館の寮で住んでいたらしく僕は小さい頃から、社長の娘である一人娘の美子と一緒に育ったようなものだった。二人は小学校から帰ると、旅館の中や敷地内にある寮や、広い庭で兄妹の様にいつも遊んでいた。

 美子が異性だと初めて気が付いたのが小学六年生の夏だった。母が休みの日、直ぐ近くの海水浴場へ美子も一緒に連れて三人で遊びに出かけた時、ふざけて遊んでいたら溺れかけた美子を助ける為、体を抱きかかえた瞬間胸のあたりが今までにない柔らかい感触でドキドキしたのを覚えている。

 中学へ入るとお互い意識していたがふざけ合ってばかりだった。高校を卒業する前に離れ離れになる寂しさからどちらともなく美子とキスをしたが、それだけだった。高校を卒業して大阪に来て一人になるその時まで、僕は恋とは気づかなかった。

 母の家庭の事情だからと言われて、僕は母と一緒に美子が東京に行くと同時に僕たちも春から大阪に引っ越してきた。それから僕は大阪の大学に入り、母は、勤め先を決めてあっという間に四年が過ぎる。

 美子とは、他愛も無い事を時々メール交換していたある日の事だった。

 僕が大学四年生の時に、美子を大阪の町で偶然見かけた。

 美子の側には、僕の知らない男がいた。親し気に話しているのを見た時、僕の心はギュっと何かに握り潰されたような気がした。こんな気持ちは生まれて初めての感情で自分でも驚いた。メールでは一切触れていないことだ。東京にいるはずの美子が大阪にいた。

 離れ離れになって気が付いた恋。美子の気持ちが知りたかった。

綺麗になっていた美子は、僕の知らない美子だった。

寂しかった。

 数日後、大学の友達に映画に誘われた。大沼京子、時々教室で話す程度のただの友達だと思っている。

「ごめんね、待った?これでも急いできたのよ、途中道間違えちゃって慌てたよ!」

「いや、全然。僕も、今来た所だよ。そんなに急がなくても、大丈夫まだ充分に時間はあるよ。コーヒーでも飲んで行こうか?」

 彼女と難波の駅で待ち合わせた。映画館に入る前だが時間が有ったのでスタバに寄った。彼女は最初の頃、僕はただの顔見知りの友達だと思っていたが、彼女の方は何故か僕の事を前から知っていたと言っていた。そして今回、思い切って映画に誘ってみて良かったと言った。

 僕は、大学に入ってから何人かの女性と付き合った事がある。いつも長続きがしなかったのは、心の中にいつも美子がいたかもしれない。兄弟の様に身近に育った美子の事が大人になるにつれ、僕の心をゆらゆらさせる。

「ごめんね、私の好きな俳優の映画に付き合ってもらったみたいね。でもきっと楽しいと思うわ。予告を見たけどかっこよかったんだぁ。あのさぁ~気が付かない?この俳優、正人くんに似ているでしょう?」

「えぇ~!似てるかなぁ? そう言えば最近テレビでも宣伝、やっていたよね。僕も気になっている映画だったから京子さんと一緒に観れて嬉しいよ。」

 京子は、嬉しそうにチケット売り場の横のカウンターでポップコーンと飲み物を買った。僕はチケットを2枚買った。映画はラブストーリー、この数年で急に人気が出た俳優の映画だと京子は夢中で僕に説明してくれる。

 映画が始まっても僕の心は美子の事が離れない。一緒に歩いていた、あの男性は誰だろう。東京にいるはずの美子が大阪にいた。今夜にでも久しぶりにメールをしてみようかと思った。

 「久しぶりのメールです。美子は元気に暮らしていますか? 先日、大阪の難波の町で美子そっくりの人を見かけたよ。もしかして、美子だったかな? 美子は、和歌山の両親と連絡を取っている? お二人ともお元気に過ごされているのかな? 時間があったらメール下さい。  正人。」

 今日、京子と映画を観ていた時、京子には悪いが僕の隣に座っている京子が美子だったらと、暗い映画館の中で退屈な映画を観ずひとり妄想していた。僕の悪い所だ、優柔不断で人に頼まれると嫌とは言えない性格。人は、僕を優しい性格だと言ってくれる。

 大人になって一度も会っていない美子、この前見た時僕の心は、はっきりした。

 僕は、就活が一段落してのんびりとできるこの数か月は、時間が余るほどある。明日は、バイトのない日だった。 友達の飲み会の誘いも断って読書に没頭して美子からのメールの返信がないことを読書で気を紛らわせている。返信は、一週間が過ぎても無いことに僕は焦っている。

 大学も後数か月で卒業。後期には、授業もほとんどない。前期に単位をほとんど取っていたのでもっとバイトの数を増やそうかと思ったり、時間はたっぷりあるのに気持ちが落ち込んでいるのは、美子からの返信が無い事なのか。

この夏の和歌山の花火大会に旅行がてら遊びに行こうかと思ったりしている。

 そして、美子の実家である旅館に宿泊を考えているのだ。もしかして、美子も花火大会には帰省してくるかも知れない。かすかに期待をしている僕がいる。


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